脆性遷移温度とは、たとえるならばクッキーを焼くようなものかもしれない。クッキーは生地のときは粘性が高いため、パリッとは割れない。グニャグニャとしている。それを200度くらいの温度で焼くと硬くなる。
それと同じようなイメージで、金属も温度が高くなるとパリッとした状態になってしまう。ただし、金属の場合は、温度に応じて脆性、粘性が変化するということだが。
原子炉の場合、その脆性遷移温度が低ければ低いほど、問題にはならない。原子炉を運転しているときは高温にさらされているために、安全マージンがとれるからだ。それが、原子炉を長く使い続けていると、どんどん遷移温度が上昇していって、マージンが擦り減らされていく。今の玄海原発は、まさにその状態と言える。
玄海原発の脆性遷移温度は90度を超えている(図表参照)。これは、どう考えても危険と言わざるを得ない。ただし、電力会社サイドにも言い分はある。試験のやり方である。
中性子照射脆化を調べる方法は、炉の中に炉と同じ素材の試験片を吊るして、定期検査ごとに検査するというもの。試験片は炉の壁よりも炉心に近いところに設置されている。そのため、炉の壁より多くの中性子を浴びることになるので壁より脆化が進むとしている。したがって、「試験片の状態は炉の壁の『今』の状態ではなく、未来の状態を示している」としているのだ。
ただ、少なくとも試験片はその値を示しているのに『未来の予測である』というのは、その通りなのかもしれないが、疑念を抱かずにはいられない。ちなみに、定期点検ごとにとられたデータによって遷移温度の変化カーブをつくり、新たな数値を加えてより精度の高い遷移温度変化のカーブをつくるという。予測によると、50年後に98℃に達するという。そもそも、この方法自体も疑念を抱かせるものだし、それをして今の状況が正しく把握できるとも言えなさそうな印象を受ける。しかし、専門家の方々に言わせると、「これが正しい」ことになるようだ。
ただ、もろくなる問題は、「その温度を下回ったら炉が木っ端みじんに壊れるというものではない」という主張は正しいと思われる。そうでなかったら、すでに玄海原発は砕け散っているはずだからだ。脆性が高いガラスコップも、落としたり、たたいたりなどのきっかけがなければ割れない。それと同じ理屈である。粘り気がなくなって脆くなっても、なだめすかして運転すれば問題ないのである。それが問題になるのは、通常ならざる状態に陥ったときである。
通常ならざる状態、つまり異常については、後述する。
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